ECは、もはや特別な販売チャネルではありません。
企業によっては、実店舗を補完する存在ではなく、これからの物販を支える主役になりつつあります。
ところが、社内の組織や商品政策、物流、流通の仕組みは、ECが脇役だった時代のまま。ここに、多くのEC事業が伸び悩む根本原因があると感じています。
必要なのは、広告やサイト改善だけではありません。EC事業の実態を正しく捉え、会社の仕組みそのものを組み替えることです。
ECを伸ばす前に直視したい5つの実態
1.ECは主役になったのに、社内ではまだ脇役
実態: ECが重要になっても、担当者が兼任だったり、補助的な役割として扱われたりするケースがあります。
マーケティング上の問題: 意思決定が遅くなり、顧客の変化や市場の反応に合わせた施策を実行しにくくなります。
改革方針: ECを経営課題として位置づけ、責任者、役割、意思決定の範囲を明確にします。
見るべきポイント: 売上だけでなく、粗利、顧客獲得、リピート、在庫回転などを経営レベルで共有します。
2.事業計画を持たないまま、ECを運営している
実態: ECを「まずは試してみる事業」として始め、そのまま明確な計画を持たずに運営している企業があります。
マーケティング上の問題: 売上の良し悪しは分かっても、何が成果につながったのか、次に何へ投資すべきか判断できません。
改革方針: 単月・年間の売上予算に加え、3年・5年の中長期計画を持ちます。
計画に入れる項目: 売上、粗利、商品販売計画、広告費、顧客獲得単価、転換率、リピート率、在庫などを数値で管理します。
3.商品マーケティングが実店舗中心のまま
実態: ECで顧客データが得られていても、仕入れや商品企画が従来の実店舗中心で進められることがあります。
マーケティング上の問題: 検索、閲覧、購入、離脱など、オンラインで得られる顧客の反応を商品政策へ生かしきれません。
改革方針: ECと実店舗を分けて考えず、オンラインで得られたデータを商品企画、品ぞろえ、価格、販促へ反映します。
目指す状態: 商品部とEC部門が同じ顧客像と販売データを見ながら、仕入れや企画を判断できる体制をつくります。
4.物流設計がECの成長に追いついていない
実態: 販売は伸ばしたい一方で、保管、出荷、配送、在庫連携といった物流の設計が後回しになっています。
マーケティング上の問題: 商品が売れても、出荷の遅れやコストの増加が顧客体験と利益を損ないます。
改革方針: 物流をバックヤード業務ではなく、ECの競争力をつくる重要な機能として設計します。
見るべきポイント: 受注から出荷までの時間、出荷費用、在庫差異、誤出荷などを継続的に確認し、必要な設備や仕組みに投資します。
5.既存の流通構造がECに合っていない
実態: メーカー、卸、小売という従来の役割や商慣習が、ECで顧客へ直接価値を届ける動きを妨げる場合があります。
マーケティング上の問題: 既存チャネルへの配慮が先に立ち、誰に、どの価値を、どの経路で届けるのかが曖昧になります。
改革方針: DtoCを含む販売経路をゼロベースで見直し、各チャネルの役割、商品、価格、顧客体験を再設計します。
判断基準: 既存の慣習を守ることではなく、最終顧客にとって分かりやすく、企業として継続的に利益を生み出せる流通かどうかで考えます。
改革は、販促より先に事業構造から始める
5つの実態は、個別の問題に見えて、実際にはつながっています。
改革は、次の順序で進めると整理しやすくなります。
ECの位置づけを決める: 会社にとってECは補助チャネルなのか、成長事業なのかを経営として明確にする。
計画とKPIをつくる: 売上だけでなく、利益、顧客、商品、在庫の目標を設定する。
商品政策を組み替える: ECの顧客データを、仕入れ、商品企画、価格、販促へつなげる。
物流を先回りして設計する: 売上拡大に耐えられる出荷能力とコスト構造を整える。
流通経路を再設計する: メーカー、卸、小売、直販の役割を顧客起点で見直す。
ECの本質は、サイトではなく事業そのものにある
ECの成果が伸びないとき、サイトのデザイン、広告、キャンペーンだけに原因を求めがちです。
しかし、本当に見直すべきなのは、その手前にある事業の構造かもしれません。
ECは社内で主役として扱われているか。
数字に基づく事業計画があるか。
顧客データが商品政策へつながっているか。
物流が成長の足かせになっていないか。
流通経路は最終顧客のために設計されているか。
この5つを問い直すことで、ECの課題は販促の問題から、経営とマーケティングの改革課題へ変わります。
EC事業の戦略、商品政策、物流、DtoCを含む流通改革を整理したい方は、ビズデザインまでご相談ください 。
5つの実態と改革方針の整理
ここまで述べた5つの実態を、起きている問題と打ち手の対応関係として一覧に整理します。自社がどこに当てはまるか、確認の目安としてお使いください。
実態 マーケティング上の問題 改革方針 1. ECが社内でまだ脇役 意思決定が遅く、市場の変化に施策が追いつかない ECを経営課題として位置づけ、責任者と決裁範囲を明確にする 2. 事業計画がないまま運営 何が成果につながったか判断できず、次の投資を決められない 単月・年間に加え、3年・5年の中長期計画を数値で持つ 3. 商品政策が実店舗中心 オンラインで得た顧客の反応を商品企画に生かせない ECのデータを仕入れ・品ぞろえ・価格・販促へ反映する 4. 物流設計が成長に未対応 出荷遅延や在庫のずれが顧客満足とリピートを損なう 保管・出荷・配送・在庫連携を販売計画と一体で設計する 5. 流通構造がECに不適合 価格や供給の主導権を持てず、利益率が構造的に圧迫される 取引条件と流通経路を見直し、直販比率の設計から着手する
※ 着手順は企業ごとに異なります。売上規模より先に、意思決定の速さ(1)と計画の有無(2)から整えるのが定石です。
よくあるご質問
EC専任の責任者を置く余裕がありません。何から始めればよいですか。 専任者の採用より先に、決裁範囲を決めることをおすすめします。兼任のままでも「いくらまでの広告費は担当者判断で実行してよい」「商品の追加はEC側の提案を優先する」といった線引きがあるだけで、意思決定の速度は大きく変わります。人を増やすのは、その運用が回り始めてからで間に合います。
事業計画は何年先まで作るべきですか。 単月・年間の予算に加えて、3年計画を持つことをおすすめします。5年計画も理想ですが、EC領域は環境変化が速いため、5年目の数字を精密に置くより、3年で到達したい規模と、そのために必要な粗利率・顧客獲得単価・リピート率を決めるほうが実務的です。計画は毎年見直す前提で構いません。
実店舗とECで、商品政策は分けるべきでしょうか。 分けないことをおすすめします。分けると在庫と情報が二重管理になり、どちらの判断も鈍ります。目指すのは、商品部とEC部門が同じ顧客像と販売データを見ながら仕入れや企画を判断できる状態です。売り場が違うだけで、相手にしている顧客は地続きだと捉えてください。
物流の見直しは、どのタイミングで着手すべきですか。 出荷遅延やミスが「たまに起きる」段階が着手のタイミングです。限界が表面化してからでは、繁忙期に立て直す羽目になります。判断材料としては、出荷リードタイム、欠品率、在庫回転を月次で見るとよいでしょう。数字が悪化し始めた時点が、設計を組み替える適期です。
流通構造を変えると、既存の取引先と摩擦が起きませんか。 起こりうるからこそ、順序が重要です。既存の経路を切るところから入るのではなく、まず自社で直接届ける経路を小さく作り、成果が見えてから配分を調整していくのが現実的です。取引先にとっても、需要データを共有できる関係のほうが長期的な利益につながります。
執筆者
宮地 章みやち あきら
株式会社ビズデザイン 代表取締役/AI・IT・EC戦略コンサルタント
1998年のEC黎明期から28年、現場に立ち続けています。楽天市場での自社EC運営(Shop of the Year 受賞多数、年商40億円の上場企業子会社の代表として設立から運営を担当)を経て、楽天株式会社で楽天ブックスのシニアプロデューサーとして売上向上と収益改善を推進。現在は株式会社ビズデザイン代表として、AI活用・DX推進・EC/IT戦略を全国の中小企業に伴走支援しています(支援企業70社)。商工会議所などでのセミナー登壇も多数。
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